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ゴーストスロッター 第9話



■ 第9話 ■

数日後の朝。

いよいよ意を決し、日高へ勝負を申し込むため、日高が通いつめているホール『エース』へ来ていた優司。
様々な問題を、自分なりにベストだと思える形で解決し、この場に来ていた。

優司は、離れた位置から開店待ちの列を見渡していた。

「(来た・・・・ 日高だ。
  よし、行くぞ・・・・)」

日高光平。
年齢は21歳で、長身の痩せ型。
端正な顔立ちにサラサラとした黒髪、といった容姿で、一見して女性にモテそうだということがわかる
ルックスの男だ。

軽く深呼吸した後、自分に気合を入れながら、仲間2人と一緒に並んでいる日高のもとへ向かう優司。

「ちょっとスミマセン。
  日高・・・君ですよね?」

不意に声をかけられ、不審そうな表情を浮かべる日高。

「・・・・・ああ。 そうだけど。 誰?」

「あの、俺、夏目っていうんだけど、ちょっと話があって。」

「話??」

「うん。 ちょっと二人で話したいんだけど・・・」

「・・・・・」

明らかに不快な表情を浮かべる日高。
一緒に並んでいる仲間2人も、不審そうな目で優司を見ている。

「なんか大事なこと?」

「うーんっと・・・ わりと大事だと思いますよ。
  日高君のグループの人間も関係することだし。」

「俺のグループの人間が?
  ・・・・・・まあいいや。 わかったよ、ちょっと話聞くよ。」

自分の仲間や下の人間が関係するとなるとほっとけない、といった様子で、日高は列を離れた。
仲間には、そのまま並んでおくように言った。

それから二人は、少し離れた場所まで行き、そこで優司が話を切り出した。

「突然ですいません。
  二人だけで話した方がいいかな、と思って。」

「・・・・・まあいいからさ、用件を早く言ってよ。」

「ああ、そうですね。」

少し間をおいてから話し出す優司。

「あの、唐突でびっくりするかもしれないけど、俺とパチスロ勝負をしてくれないですか?」

「パチスロ勝負?」

「うん。 日高君のジグマってるこの店『エース』での設定読み勝負です。」

それを聞いた日高は、少し考え込んでいる様子だった。


**********************************************************************


「夏目っていったよな?
  あのさ、なんでいきなり俺にスロ勝負なんて持ちかけてくんの?」

しばらく間があった後、日高はこう質問した。
日高にしてみれば当然の質問である。

「ですよね、そう思いますよね。」

待ってましたとばかりに説明を始める優司。

「日高君のグループに藤田ってヤツいますよね?
  実は俺、アイツとちょっと因縁があって。」

それから、藤田から受けた屈辱的な仕打ちについて詳しく説明していった。
なるべく感情に流されないように、わかりやすく客観的な視点で。

ここで主観的な恨み辛みを言っても、逆に引かれることは自明の理。
前日に、優司が最も気をつけようと思っていたポイントである。

そして、そもそもホームレス生活を強いられる原因となったヒキ弱ぶりなども、具体的に説明した。

優司が説明を終えると、日高はすかさず返事を返した。

「なるほど。 その説明が嘘じゃないってのはわかる。
  藤田の件については、本人に聞けば一発でわかることだし。
  あと、高設定ばっかツモって負け続けてる、ってのも嘘じゃないんだろうね。
  そんな嘘をついても意味ないし。」

「・・・・・・・」

「まあ、藤田からそんな仕打ちを受けたなら黙ってられないだろうし、俺も長いことスロ打ってきて
  刺激に飢えてることも確かだし、面白そうだから条件次第で受けてもいいぜ。」

かかった!と優司は思った。

ここまではなんとなくうまくいく予感はしていた。
生粋のスロッターならば、こういった勝負に興味を示す可能性は高いし、ましてやスログループの
リーダーくらいになってくれば、それなりの見栄やプライドもあるだろうから、堂々と勝負を突きつけ
られたら断れないだろう、と踏んでいたのだ。

しかし、問題はここからの交渉だった。

「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ!
  で、条件なんだけど、勝負方式はさっきも言ったとおり『設定読み勝負』でいこうかと思ってます。
  最終的な出玉は一切関係なく、結果的に設定6をツモった方が勝ち、っていう勝負。」

「・・・・・なるほど。 で、勝った時の戦利品は?」

「うん、負けた方が勝った方に30万円支払うっていう形にしようかと思ってて。
  30万円っていうのは、あの時藤田が換金した額とほぼ同じだったから、なんとなくこの額に設定して
  みたんだけど。」

「30万か・・・・」

金額を聞き、また考え込む日高。
優司には、この金額が多くて悩んでいるのか少なくて悩んでいるのかがわからなかった。

「・・・・不満??」

不安そうに聞く優司。

「いや、金額に不満はない。
  けどさ、条件はそれだけなのか?
  藤田に恨みを晴らしたいんだろ?」

「(なんだ、そのことか。)」

少し安心する優司。

当然、優司の考えている条件はこれだけではなかった。
藤田のことについてもじっくりと考えておいたのだから。

「やっぱ鋭いですね。
  実は、もう一つ条件があって、俺が日高君に勝った場合には、あの時俺が受け取るはずだった15万を
  藤田から取り返して欲しいんですよ。」

「・・・・・・・」

「さらに、ヤツの取り分である15万を俺の目の前で破棄させてもらえないかな、と。」

優司なりに考えた、藤田への復讐の第一歩がこれだった。

一見不十分なようにも思えるが、読みが効かず、ただグループにぶら下がっているような低レベルな
スロッター藤田にとって、優司への返金15万+破棄金15万のトータル30万ともなる出費はかなりダメ
ージを与えることができると踏んでいたのだ。

「ふーん・・・・ まあ、そんくらいのことは要求してもバチは当たらないだろうな。
  でも、その分俺にももう少し有利な条件が加わらないと駄目なんじゃないか?」

「それも考えてます。
  もし俺が勝って15万貰えたら、藤田が破棄した分、つまり残った15万は手数料として日高君に
  貰ってもらおうかと思ってます。」

「・・・・・なるほどね。
  でもさ、それは俺が負けた時の特典だろ?
  俺が勝った時の特典もつけて貰わないと釣り合わないんじゃないの?」

少し困ったような表情を浮かべたフリをする優司。

しかし実は、これくらいのことは要求してくるだろうことはわかっていた。
だが、「自分は譲歩したんだ」ということをアピールするためにも、わざと困ったようなフリをしていたのだ。

「・・・・・わかりました。
  じゃあ、俺が負けた時には、今まで何ヶ月間かまとめてきたここらへんのホールの特徴なんかが書いて
  あるノートを渡します。
  とりあえず参考までに軽く見てみてください。
  ちなみに、ノートはこれ一冊じゃないんで。」

そう言って、ポケットの中のノートを日高に手渡した。

渡されたノートをパラパラとめくり軽く目を通した後、ポツリと呟く日高。

「すげぇ・・・・ こんなに細かく・・・・
  しかも内容も的確だ・・・・・」

予想通りの反応。
パチスロのことをよく理解している勝ち組の人間ならば、思わずうならずにはいられないくらい詳しく
まとめられたノート。

それだけ自信があるモノだからこそ、優司もわざわざ見せたのである。

「・・・・わかった。
  これだけの情報が書き込まれたノートなら、はっきり言ってかなり利用価値は高い。
  軽く見た感じでも、かなり的を射たことがメモってあるし。
  この勝負、受けて立つぜ。」

優司は身震いした。
ついに日高から、勝負をする、という言質をとったのである。

「よかった!
  藤田に恨みを晴らせるチャンスももらえて、さらに日高君みたいなスロッターと勝負できるなんて
  一石二鳥だよ!」

優司のこの言葉に、日高の表情が少し緩んだ。

が、その直後に日高から、優司が最も困っていた点についての質問がきた。

「ところでさ、夏目君は30万って金を本当に持ってんの?
  さっきの話だと、今ホームレスなんだろ?」
 

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