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ゴーストスロッター 第59話



■ 第59話 ■

「八尾って言ったよな?
  お前、いくつ?」

うどん屋のカウンター席に並びで座った二人。
広瀬は、うどんをすすりながら八尾に話かけた。

「えっ・・・・と、20歳・・・・・・・です。」

「なんだ、俺とタメじゃん!」

「え・・・?
  あ、そ、そうなん・・・・っすか?」

「うん。
  あれ? なんか意外そうにしてない?
  俺、そんな老けて見えた??」

「いや、むしろ俺より下かな、って・・・・」

「危ね〜!
  下に見られたならまだいいや。
  いや、いきなり敬語使われたから上に見られたのかと思ってショック受けたよ〜。
  勘弁してくれよ〜。」

「あ、あはは・・・・・」

「じゃあ普通に喋りなよ!
  俺、タメとかに敬語使われるの大ッ嫌いなんだよ。」

「あ・・・ う、うん・・・・」

やや圧倒され気味の八尾。

それもそのはず。
ついさっきまで強盗しようとしていた男に、今まさにうどんを奢られているのである。
挙動不審になるのも当然だ。

「・・・・あ、あのさ広瀬君。
  いっこ聞いていい・・・・?」

うどんをすする広瀬に、おそるおそる質問する八尾。

「ん? 何?」

「・・・・・あのさ、なんでこんな俺をメシに誘ってくれたの?
  キミから金を奪おうとしてたのに・・・」

「ああ、なんだそんなことか。」

「そ、そんなことって・・・・」

「簡単な話だよ。
  お前あれだろ?
  パチかスロで負けまくって、そんで借金膨らんであんなことしようとしてたんだろ?」

「な、なんでそれが・・・・・?」

「あんな計画性のない換金所強盗ってのは、大概はパチ屋で負けた奴が突発的にやるもんさ。
  ・・・・実際そうだろ?」

「まあ・・・・ そんなとこ・・・・・ かな。」

この言葉を聞いて、広瀬はいったん箸を置き、正面を見据えながら呟くように語りだした。

「俺さ、パチスロを愛してんだよね。
  あんなにかわいいモンはないよ。
  こっちの要望にはきっちりと応えてくれる。
  つまり、高設定打ち続ければきっちりと結果がついてきてくれる。
  巧みなリール制御や演出で楽しませてくれてるのに、金まで貰えるんだぜ?
  ま、たまにヘソ曲げちゃう時もあるけどね。
  理不尽なハマリとか。
  それがまたたまんないんだけどさ!」

「・・・・・・・」

「そんな素晴らしいモンなのに、パチスロが原因でああいう行動起こす人間がいるってのが悲しくてさ。
  俺、今グループ組んでで、人数も15人くらいいるんだけど、全員元々はお前みたいな感じだったんだ。
  みんな、パチやスロが原因で二進も三進もいかなくなっててな。
  そういう人間を全員救うことなんて出来ないしおこがましいけど、せめて何かの縁で出会った人間
  くらいは救っていきたいなって思ってんだよね。
  今回のお前と俺も、出会いっちゃ出会いじゃん?
  しかも、強盗しようとした人間と強盗されそうになった人間、この取り合わせってなんか面白くない?」

そう言って、広瀬はケタケタと笑った。

しかし八尾は、今広瀬が口にした『グループ』の存在が気になって仕方がなく、笑ってなどいられなかった。
すぐさま、頭に浮かんだことを広瀬に訴えかける。

「じゃ、じゃあ!
  もしかして俺も・・・・・・・そこに入れてもらえたりする・・・・かな・・・・?」

「ああ。 お前が望むんなら。
  パチ屋で負った借金はパチ屋で取り返したいだろ?
  それにさ、勝たなきゃスロの本当の楽しさ、素晴らしさってのもわかんないだろうし。
  俺としては、それを知ってもらいたいってのもあってさ。」

「じゃあ俺、是非広瀬君のグループに・・・・」

「ああ、来なよ。 明日からでも。」

「あ、あ、ありがとう!」

「まあいいからさ、とりあえず食っちゃおうぜ。」

八尾は黙って頷き、残りのうどんを一気に平らげた。



食事後、軽く一服した後店を出て、その場で携帯の番号を交換した。
それから広瀬は、明日『マルサン』に来るようにと八尾に告げ、その場を去っていった。

「(それにしても、なんか不思議な男だな。
  パチスロを愛してるって・・・
  変な男だ。)」

心の中で軽く毒づいてみる八尾。
しかし実際は、広瀬という人間に強烈に惹かれていた。

そして、さっきまではどん底にいたような気分だったが、今の数十分の間でかなり救われた
ような気がしていた。


**********************************************************************


翌日から、約束どおり広瀬は八尾をグループに入れ、パチスロのイロハを教え込んでいった。
そして、まずは広瀬の指示通りに打ち、勝った金の8割を貰い、残り2割はグループへ入れると
いう形式に従った。

これは八尾だけでなく、広瀬のグループにいる人間全員に課される義務。

そしてこの2割ずつ集められた金を「救済基金」とし、当日の収支がマイナスだった者はここから
予め決められたルールに基づいて分配を受ける。

なぜこんなシステムがあるのか?

その理由は、、、

パチスロは、高設定に座り続けても負け続けることが多々ある。
そしてそんな時、「正しい立ち回りなんだから、これは仕方のないことだ、単なる確率のイタズラだ」と
無理矢理自分を納得させるが、やはり内心気持ちの良いものではない。

そんな気苦労を少しでも減らそうとして、広瀬が考案したのが上記の制度。

完全なノリ打ちにすると、大勝ちした者としてはガックリきてしまう。
もちろん、逆に助けられることもあるゆえ、仕方のないことだと頭では理解できるのだが、それでも
ある程度は気分的にヘコんでしまうだろう。

しかし、2割程度なら問題ない。
いざ自分が負けた時に、この資金から助けてもらうのだから、なんら問題なく出せる。

なるべく打ち手に日々のストレスを溜めさせないように、という広瀬の優しさから生まれた、「保険」と
同じようなシステムだった。

そしてこのシステム、グループ内では大好評だった。

ただ一人を除いて・・・・
 

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