ゴーストスロッター 第51話
「(こ、こりゃ決まったね。 も、もう夏目に勝ち目はない。)」 優司の頭上にあるコインを見て、改めて八尾の勝利を確信する信次。 時間は14:00。 優司の出玉は・・・・・・・ 約3000枚・・・・・・ 対する八尾は、投資21000円のままで出玉は150枚程度。 優司にとっては、もはや絶望を通り越して「敗北ほぼ確定」と言っても過言ではない状況。 何しろ、その差は現金にして約8万円もの開きがあるのだ。 11時の時点で既に1500枚ものコインを抱えてしまった優司だが、「こんなものは一時的な偏り」と 気を取り直してガシガシ回していた。 だが、その勢いは一向に衰えなかったのである。 「(何がどうなってるんだ・・・・・・・? 何をどうすればこのコイン共はいなくなってくれるんだ・・・・・・? 一度も特訓に入らずここまで増えちまうなんて・・・・・)」 もはや目の焦点が定まっていない優司。 惰性でチンタラとレバーを叩いてはいるが、全くもって生気がない。 「(このままじゃ・・・・・ このままじゃ100%負ける。 なんとかしないと・・・・・ 何かないのか・・・・? 何かあるはずなんだよ・・・・・ いつもなんとかしてきたじゃないか・・・・・・)」 必死に脳内の引き出しを探す。 だが、そう簡単には打開策が見つかるはずもない。 「(・・・・とりあえず台移動だ。 この巨人はまずい。 何度リプレイ3連がきても全然特訓に入らないから設定1は濃厚だけど、波に乗りすぎてる。 『波』なんて言葉使いたくはないけど、その変な意地のせいでここまで出玉が増えちまったんだ。 移動しなきゃ・・・・)」 移動候補機種を頭の中で浮かべていく。 「(ルール上、移動は3回しかできないから真剣に選ばなくちゃいけない。 考えろ・・・・ 考えろ・・・・ どの機種へ行く? 他の巨人か? でも、今空いてる台の中で設定1だという確信がある台がない・・・・ ダメだ! 何がなんでも1に座らないと! 何かないのか・・・・・・・?)」 手を止めて、ただ考えることに集中する。 後ろで監視している信次が不思議そうに覗き込んでくる。 そんな信次の行動などお構いなしに優司は考え続けた。 そして、ようやく一つの結論を出す。 「(吉宗か・・・・? アレなら一撃で3000枚溶かすことも可能だ。 ・・・・・・よし、こうなったらもうしょうがない。 とりあえずそれでいこう!)」 機種の絞込みが終了し、早速席を立つ優司。 吉宗のシマはあまりピーピングしていなかったため、なんとかここまでの履歴で設定1が濃厚だと思われる 台を探そうと考えたのだ。 後ろを振り返り、信次にことわりを入れる。 「ちょっと移動候補台を探してくる。 別にいちいちついて来なくていいよ。 すぐ戻ってくるから。」 そう言って、吉宗のシマへ向かった。 すると、その途中のこと・・・・・ 「・・・・・・え!?」 思わず声が出る優司。 ふと目をやった方向に、「気になるもの」を発見したのだ。 「(そうかッ・・・・・ そうだ! ここは『ベガス』だッ! これがあったじゃないかッ!!)」 そう思うやいなや、ダッシュで元の自分の席へと戻り、約3000枚分のコインを持って移動を開始した。 ********************************************************************** 「や、八尾さんッ!」 信次が大急ぎで走り寄ってきた。 そして、日高に聞こえないよう耳元で『ある報告』を行った。 「た、大変です! 夏目が台移動して・・・・」 「台移動? 別にいいじゃねぇか。」 「そ、それが、ゴ、ゴールドXで・・・・」 「何・・・!?」 それから、二人でボソボソと喋り始めた。 その様子を黙って見ていた日高。 「(・・・・何やってんだアイツら。 そういえば夏目が台移動したみたいだけど、どこで打ってんだろう。)」 妙に気になり、一旦八尾の後ろから離れて優司を探しに行く日高。 しばらく歩き回っていると、『変則押し禁止! 発見次第出玉没収!』という張り紙がされたゴールドXの シマで、堂々と変則押しをする優司の姿があったのだ。 慌てて優司に飛びつく日高。 「そうか! そういうことかよ夏目! そうだよな、確かにこの店にはこれがあったんだよ! 小島がまんまと喰らってたんだもんな!」 嬉々としている日高に対し、優司は大分落ち着いていた。 「ああ。 AT機は完全に候補からはずしてたからすっかり忘れてたよ。 さっきも、偶然このシマを通ったんだ。 吉宗に移動しようとしてさ。」 さっきまではこれ以上なく焦り、絶望していた優司だったが、もう普段の冷静さが戻っていた。 いつの間にか監視に戻ってきた信次は、二人の様子をただじっと見ているだけ。 さらに優司が言葉を続ける。 「さっき店員が見てたから、そろそろ上の人間が注意にきそうだよ。 まだ勝ったわけじゃないけどさ、これで大分差を縮められるよ!」 「そっか! マジでよかったよ・・・ 確かにまだ劣勢だけど、さっきまでの状況よりは大分前進だよな。 一気に3000枚が没収されるんだし。 よし、じゃあ後は頑張れよ! 俺はとりあえず八尾んとこ戻るから。 」 「ああ。 よろしく頼むよ。」 こうして日高は、八尾のもとへ戻っていった。 優司は、再び変則押しでの消化を始めた。 あとは店員が没収に来るのを待つのみ。 「(八尾との取り決めで、『機種情報不足による出玉の減少』は反則になってるけど、こういう 『ホール情報不足による出玉の減少』は反則にはならない。 俺があの張り紙を見てなかったことにすりゃいいんだ。 そうすれば、『意図的にコインを減らそうとした行為』には当たらない。 これくらいは全然ルール内だ。 『なんでもアリ』ってルールなんだからな。 ルールで決められてなきゃ、何をしてもいい。 これは、八尾が自分で決めたこと。 八尾だってそんなことくらいはわかってるはずだ。)」 ガラガラのゴールドXのシマで、優司は自信を持って変則押しを続けた。 すると、シマのハジに一人の白シャツの男が立ち始めた。 現金の回収時などで、たまにホールへ姿を見せる男だ。 「(来たッ! あの白シャツはこのホールの主任だ。 店員がチクったんだろうな。 グッジョブだぜ店員! 確か小島も、主任に出玉を没収されたって言ってたしな。 ってことは、アイツが近藤っていう主任か・・・・?)」 そしてその白シャツ男は、ゆっくりと優司の方へ歩いてきた。 第52話へ進む 第50話へ戻る 目次へ戻る
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