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ゴーストスロッター 第129話



■ 第129話 ■

「(やばいな・・・・・・・
  もう3時か。
  いつ設定発表があってもおかしくないってことだよな・・・・・・
  このままじゃ、二人揃って失格ってことも・・・・・)」

優司は焦っていた。

15:00になってもまだ台を決めきれず、それどころかヒントの意味すら全く解明できず、逆にヒントに
弄ばれている状態。

しかし、これは神崎も同様。
基本的には優司と同じような動きをしながら、苦々しい表情で考え込んでいる時間が多い。

だが、優司としてはもちろん安心などできない。
いつ神崎が何かに気がつき、動き出すのかはわからないのだから。

優司の焦りは刻一刻と募っていく。

「(こうなったら・・・・・
  とりあえずここまでのボーナス履歴を参考にして6の可能性が高い台をあぶりだす、って方が
  効率的か?
  このままタイムアップで失格になるくらいなら、とりあえず何かしらの台を選んでおけば勝つ
  可能性が残る。
  それなら、無理にヒントにこだわらなくても・・・・・)」

一瞬心が折れかけたが、すぐに考え直した。

「(ダメだ!
  くそ、何回この堂々巡りをやってるんだ。
  ボーナス履歴から6を選ぶなんて方法じゃ、所詮運任せに近い。
  ただ6を掴む可能性を高めてるだけだ。
  その程度の立ち回りなら誰にだってできる。 そんなんじゃダメだ!)」

心の中での葛藤が続く。

「(明確にヒントが出てるんだ。
  それを活かしての台選び以外は全部下策。
  ましてや神崎だってまだ台を選んでないんだ。
  神崎がもうどこかの台に座ってしまってるんならまだしも、まだ焦って適当な台に座ったりするわけ
  にはいかない。
  ・・・・とにかく、もう一度各シマのチェックだ。
  吉宗以外は設定据え置き、この言葉を念頭に置きつつ・・・・)」

優司は、もう何度目になるであろうシマチェックを再び開始した。

まず訪れたのは北斗のシマ。

つい先ほどまでは9台中7台稼動と盛況だったが、急にバタバタと空き台が増え、現在稼働中なのは
2台のみ。
これ幸いと、まずは北斗のシマからチェックすることにしたのだ。

早速、入り口から一番遠い、シマの左端に位置する144番台からチェックを開始した。

しかし、ただでさえ設定の読みづらい北斗で、かつ、一時的に稼動が上がることはあっても全体的には
あまり稼動が良くないため、すぐにこのシマは見限った。

そして、次にチェックを始めたのは向かいのシマにある銭形。
9台中、客が座っているのは3台。

右端にある145番台から、丹念にデータを見ていく優司。

するとその時だった。

「(あれ・・・・・?
  この147番台、現時点で7回ボーナスを引いていずれも565G以内、か。
  そういえば昨日、この台にはちょっと引っ掛かったんだよな。)」

優司は、空席となっている147番台の前で立ちつくしながら、後ろのポケットからメモ帳を取り出した。

「(・・・・・・・うん、間違いない。
  この台、昨日は4000G稼動で13回ボーナスを引いてて、一度も565Gを超えてない。
  で、今日も2200G稼動で7回引いて超えず・・・・・か。)」

どんどんと自分の世界へ入り込み、思考を巡らしていく。

「(もしかして・・・・・・
  昨日6だと発表された台以外にも6があった・・・・・?
  シークレットで6が置かれてたのか?)」

ドクン、と大きく心臓が鼓動を打ったのがわかった。
何か大きなヒントを掴んだような気がしたのだ。

「(このホールは、基本発表台以外に6はないはず。
  過去、発表台以外で完全に6だと思えるような台を確認できたことがない。
  そこが今日の引っ掛けか・・・・?
  昨日に限りシークレットで6を複数投入しておき、それを密かに据え置く・・・・・・
  もしかしてこういうことなのか!?)」

一旦シマの中から出て、銭形と北斗が見通せる位置に陣取る優司。
壁にもたれかかりながら、さらに考え込んだ。

「(でも待てよ・・・・・
  それだとヒントはどうなる?
  『昨日の設定6がそのまま』って書かれてるけど、昨日発表された6は、続々と6が否定されてる。
  夢夢もカイジも銭形も。
  北斗は、ヒキによっては6でも前半不発になることもあるし、まだわからないけど、それでも現時点
  では北斗も昨日の発表台は全然ダメだ。
  つまり、昨日の発表台で6っぽい台は1台もない。)」

ボーっと宙を見つめている優司。

もはや周りの光景など見えていない。
ただただ、考えることだけに集中している。

「(もしかして・・・・・・・シークレットで置かれた6のみが据え置き、ってことなのか!?
  確かに、ヒントでは『昨日の設定6がそのまま』と書いてあるだけで、昨日の設定6『全台』がそのまま、
  とは書いてない。
  全台ではなく、シークレットで設置されてた6のみが据え置き、というふうにも解釈できる。
  かなり無理矢理なこじつけではあるけど・・・・・
  でも、このホールが出してくるヒントはいつも捻じ曲がったものばかりだ。
  だったら、こういう捻じ曲がった解釈も通る・・・・か・・・・?)」

ここで優司は、携帯を取り出し時間を確認した。

「(3時15分か。
  ・・・・・・・・・・よし、もう時間も時間だ。
  この際100%は求めていられない。
  焦りは禁物だってついさっきも自分に言い聞かせたばっかりだけど、そう言っていつまでも決められ
  ないでいることの方がさらによくない。
  状況に応じて臨機応変に対応しないと。)」

もう一度シマの中へ入っていく優司。
そして、先ほどの銭形の147番台の前で立ち止まった。

「(この銭形は、昨日の履歴が良く、現時点での今日の履歴も良い。
  昨日13回と今日の7回、合計20回、一度も565Gを超えてないんだ。
  このことは、ボーナス履歴から6が匂ってくるだけでなく、設定6据え置きっていう条件も満たして
  いることになる。)」

優司はメモ帳を見ながら、昨日の『ミラクル』のホール状況を再確認した。

「(他の機種にも、昨日シークレットで6が入っていた台があるかもしれないけど、夢夢は稼動が悪いし、
  北斗は6だったのかたまたま噴いたのかがわかりづらい。
  で、カイジにはシークレットで6がなかったことはほぼ確実だ。
  ・・・・・・この状況からいくと、比較的稼動が良い銭形に絞って台を選ぶのは理にも適ってるな。)」

再び丹念に銭形のシマのチェックを始める優司。
もう何度も繰り返している行為だが、しつこくやるに越したことはない、と自分に言い聞かせ、多少
うんざりしつつもチェックを続けた。

「(やっぱり、昨日と今日で一度も565Gを超えてないのは147番台だけだ。
  昨日6だった153番台ですら、4000G稼動で2回ほど565G超えをしてるし。
  ・・・・・・あと、本来ならチェリー解除率も知りたいところなんだけどな。
  でもさすがにそれは不可能だし・・・・・)」

悩みながらも、優司は銭形の147番台の下皿に携帯を置いた。

「(・・・・・・・・・よし、この台でいこう!
  『シークレットで設置されていた設定6のみが据え置き』、かなり飛躍した解釈かもしれないけど、
  このホールの場合、逆にそれくらいの発想がないとダメだ。
  これがあのヒント文章の正しい解釈なんだ。 間違いない!)」

開店から5時間以上が経過した15:15過ぎ、ついに決心した優司。

席に座り、1000円札をサンドに投入しながら優司は思う。

「(とにかく、絶対に失格だけはごめんだ。
  そんな、むざむざ勝ちを捨てるようなことだけはできない。 馬鹿げてる。
  1%でも2%でも、とにかく少しでも勝つ可能性を上げるんだ!
  どんな形でもいいから、少しでも勝つ可能性を・・・・・
  そのためには、今の俺のこの行動はベストなはず。)」

優司は、とにかく貪欲に、勝つことだけに強くこだわった。


**************************************************************************


「(3時か・・・・・ まずいな。
  ここからは、いつ設定発表のマイク放送が始まるかわからない。
  今この瞬間にも始まるかもしれないんだ。 何か・・・・・何かないのか手掛かりは・・・・・)」

神崎は焦っていた。

開店から5時間経っても、まだヒントの意味がわからない。

『ミラクル』のヒントとまともに向き合ったのはこれが初めてだが、それでも神崎は、正直ここまで
手こずるとは予想していなかった。

なんだかんだで、ある程度時間をかければなんとかなる、と考えていたのだ。
これは優司も同様だが。

「(ふぅ・・・・ さて、どうするか。
  夏目も苦戦しているようだけど・・・・・
  ん? 北斗と銭形のシマへ行ったな。
  何か思いついたのか?
  ・・・・・・いや、夏目の行動に振り回されるのはやめよう。
  夏目の行動が手掛かりになることもあるかもしれないけど、惑わされることも多い。
  まずは自分に集中するんだ。)」

入り口付近にある吉宗のシマの端、117番台。
この117番台の後ろにある壁あたりが、神崎の定位置と化していた。

「(よし、もう一度ホール状況を確かめに行こう。
  今夏目が北斗と銭形の方へ行ったから、まずは夢夢とカイジのチェックをしてみるか。
  もう何度もしてるけど、何か閃くかもしれないし。)」

神崎は、無駄を承知の上で再び各台のチェックを行なうために動き始めた。

もう何度となく繰り返している行為。
しかし、これを愚直に繰り返すしか今のところ策がない。

神崎にとっても、非常に苦しい勝負となっていた。

「(・・・・・・辛いけど、中途半端に投げやりになっちゃダメだ。
  重要なのは、とにかく妥協だけはしちゃいけないってこと。
  確信もなく台を選ぶなんてことだけは絶対に避けなきゃダメだ。
  ここまで頑張ってきた意味がなくなるし、第一そんな偶発的な要因で6を掴んでも仕方がない。
  なんでもいいから勝てばいい、ってわけじゃないんだ。
  気持ち悪い勝ちなら、いっそ要らない。)」

神崎は、勝つことだけでなく、勝ち方にも強くこだわった。
 

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