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ゴーストスロッター 第111話



■ 第111話 ■

「何を驚いてんだよ。
  約束してただろ? 神崎との勝負を成立させてやるってよ。
  それが、そろそろいけそうなんだよ。」

土屋は、悠然とした口調で優司に語りかけた。

「マ、マジで・・・・?
  神崎との勝負がそろそろ・・・・・?」

「ああ、嘘じゃねぇよ。
  神崎にはもう申し込んでおいた。
  あいつは無視なんてできないはずだ。 俺からの挑戦ならな。」

「・・・・・・・・・・・・」

「信用しろって。 そんな疑わしい顔するなよ。」

無表情を装っていたつもりだが、訝しげな表情をしていたことはすぐに土屋に見抜かれてしまった。

「いや、疑わしいなんて思ってないよ。
  最初からの約束でしょ? 神崎との勝負は。」

「・・・・・・・・・・・・」

「じゃあ、早く決めて欲しいもんだね。
  2週間以内だっけ?」

精一杯強がった口調で言い放つ優司。
頑張って平静を保とうとしているのが伝わってくる。

土屋は、相変わらず余裕たっぷりのまま優司の問いに答える。

「ああ、その予定だ。」

「わかった。 せいぜい期待して待ってるよ。」

そう言って優司は席を立ち、出口の方へ向かって歩き出した。

すぐさま土屋が声をかける。

「また今日も頼むぜ。
  夜11時までにはメールくれよな。」

その声に反応し、軽く振り向きつつ頷く優司。

夜11時のメールとは、設定予測の結果を土屋に送るメールのことだった。
翌日の、各ホールの主要機種における設定状況を。


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「なんかぶっきら棒に行っちまったな。
  大丈夫か土屋?」

若干心配そうに丸島が聞いた。

「大丈夫だよ。
  あいつはもう俺達から離れられない。
  そういうふうに手を打ってあるだろ?
  柿崎に流させた噂がうまいこと広がったから、日高たちのところへ戻ろうにも戻れないだろうし、
  そもそもあいつはなんとしてでも神崎と勝負したいんだ。
  それを達成するまではここにいるさ。」

「報酬面で激しく騙されても・・・・・・か?」

「ああ、そうだ。
  現に見ただろ?
  1000万っつってたのが10万だったのに、奴は我慢した。
  もう他に行くところなんてないし、何より絶対に神崎との勝負を成立させたいから耐えるしか
  ないんだよ。」

「なるほどな・・・・・ で、神崎との勝負は、ちゃんと成立させてやるんだよな?」

「もちろんだ。 それは俺の希望でもあるし。
  1年前の俺の無念を晴らすためのな。
  夏目のためでもなんでもなく、俺の為に必ず実現させる。
  夏目は俺の代打ちだ。 夏目が勝てば、イコール俺が神崎に勝ったことになる。」

おとなしく聞いていた柿崎が口を挟む。

「確かにそうだよね!
  代打ちに立てた人間が勝てば、本人が勝ったも同然だもん。
  優秀な代打ちを掴める能力が土屋君にはあったってことだもんね!」

「そういうことだ。 よくわかってんじゃん柿崎。」

「へへへ、そりゃもう!」

「そういうわけだからさ、頼むぜ丸島。
  なんとか無事神崎との勝負をまとめてくれよ。
  この件についてはお前に任せてるからさ。」

「ああ、大丈夫だ。 なんとかするよ。
  昨日申込みに行った時は神崎がいなくて、代わりに伊達って奴が出てきたんだけど、素直に俺の
  話を聞いてたしな。
  おとなしく神崎に話を通してくれそうだ。
  で、それを神崎が素直に受けて、あとは夏目に勝ってもらうだけ。 これで解決だろ。」

「よし、それでいい。
  じゃ、俺達は引き続き稼がせてもらうか!
  夏目の鋭い設定推測を利用して。」

「いいねぇ〜!
  今月は10万っつー安い金額で働いてくれたわけだしな。
  ・・・・・で、来月はどうするんだ?
  約束通り、1000万って金を払うつもりか?」

「冗談だろ。
  来月こそ、あいつはさらに行き場所がなくなってるよ。
  勝負までの間に夏目の悪い噂はさらに広がり続けるだろうし、俺達のためにこの街のヒーローみたいな
  神崎と戦うわけだし。」

「なるほどね。 じゃあ来月も・・・・?」

「もちろんはした金で働いてもらう。
  まあ、10万って額じゃさすがにまずいだろうから、30万くらいは渡すつもりだけどな。
  丁度あいつのスロ勝負1回の相場だ。
  ・・・・・・いや、そんなに渡さなくてもいいかもな。
  生活していけるだけの必要最低限の額でもいいか。
  今までのスロ勝負で貯めこんだ分もあるだろうから、月に20万くらいでもいいかもな。」

「おお〜、相変わらずわりい奴だな土屋は。
  今月も、実は純利益で2000万くらいあんのに、夏目には容赦なく10万だもんな。」

「別におかしくないだろ?
  俺が1000、丸島が500、柿崎と吉田が250ずつ。
  ほら、これでぴったり2000じゃん?
  余った端数を、夏目にやったまでだよ。 適正だろ?」

「まあ、そりゃ違いねぇけどな。
  あんなガキには、10も渡せば上等だ。」

ニヤつきながら、そう言い捨てる丸島。
柿崎も、ニヤニヤしながら頷いている。

美味そうにコーヒーをすすった後、土屋が再び喋りだした。

「とにかく、今後も夏目は利用していく。
  さっきも言った通り、あと一ヶ月もすればあいつの居場所は完全になくなるんだ。
  俺たちのところしかな。
  そうなれば、もう遠慮することはない。
  堂々と10万とか20万の金で毎月こき使ってやればいい。
  まだあいつにも逆らう気力が残ってるかもしれないから、あと一ヶ月だけはおだてといてやろう。
  丸島も柿崎も覚えておけよ。
  まだ露骨に邪険に扱ったりするなよ?」

「わかってるって。
  そのへんは抜かりなくやるよ。 なぁ柿崎?」

「もちろん! 心配いらないよ土屋君。」

土屋は二人の反応を見た後、再び美味そうにコーヒーすすった。


**************************************************************************


「(まさかここまで俺をナメきっていたとはね・・・・・・
  1000万だと思ってた報酬が、その1/100の10万・・・・・・
  もはや笑い話だよなぁ・・・・・・・ ははは・・・・・・・)」

店を出るまではなんとか意地を張って普段どおりの態度を取っていた優司だが、店を出て少し歩いた
あたりから、次第に姿勢が猫背になり俯き加減になっていった。
その表情からは全く生気が感じられない。

予想を遥かに上回る悲惨な結果。
土屋たちが自分を対等に扱っていないことは空気で察していたが、まさかここまで蔑まれているとは
思っていなかった優司。

設定推測という形で彼らに大きく貢献したし、神崎との勝負が成立するまではなんとか調子を合わせよう
と思い無理矢理談笑に応じていたりもした。

なのに、結果こういう扱いを受けてしまう自分。

彼らは、自分のことなどなんとも思っていない。
鼻にもかけていない。
ただただ、表面上の言葉で「凄い、凄い」とおだててくるだけで。

なんとなくわかってはいたものの、いざはっきりとこういう現実が突きつけられたことで、自分がたまらなく
惨めに思えてきた。
目は、軽く涙ぐんできている。

「(俺は・・・・・一体何をやってんだろう。
  あんな奴らにコケにされて、それでもまた夜には、予想した設定状況をあいつらにメールで送ろうとしてる。
  本当、何をやってんだ・・・・ ただのバカじゃんよ・・・・・)」

ギュッと奥歯を噛みしめる。
目に溜まった涙は、今にも頬を伝いそう。

「(神崎との勝負にしたって、どうせまた嘘かもしれない。
  俺を繋ぎとめておくために、ああやってそろそろ決まりそうな雰囲気を出してるだけで・・・・・
  神崎との勝負が成立することだけを支えに、ここまでやってきたのに・・・・・・・・)」

すべてがマイナスな方向にしか考えられなくなっている。

「(もうやめちゃおうか・・・・・・
  こんなに苦しむんなら、日高たちに素直に頭を下げて、それですべてを終わりにしちゃおうかな・・・・
  いろいろ俺のために忠告してくれてたのに、変な意地張って忠告に逆らい続けたこと。
  挨拶もなしに連絡を取らなくなって、挙句得体の知れないやつらと組んでること。
  まとめて全部謝ってスッキリして、またあの場所に戻ろうかな・・・・・
  戻らせてもらえるなら・・・・・
  もうこれ以上こんな生活をするのはさすがにキツいよ・・・・・ 気持ちが続かないよ・・・・・・)」

心が折れる寸前。
いや、もう折れていると言ってもよいような状態。

その時だった。

「今日は珍しく一人なのね。
  取り巻きの連中はどうしたの?」

不意に後ろから、聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。
 

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