ゴーストスロッター 第10話
今回仕掛ける勝負において、最も優司が苦労した部分。 それが金の工面であった。 「大丈夫。 そうくると思って、今日30万持ってきてるんだ。 ほら。」 そう言って、優司は現金30万が入った封筒を後ろのポケットから取り出し、日高に見せた。 「おおー・・・・ すごいね、そんな大金を持ち歩いてるんだ。」 すんなりと30万もの金を目の前に出され、少し圧倒された様子の日高。 それを見て、納得したように話を続けた。 「よし、わかった。 こうして実際に30万持ってるわけだから問題はないね。 それがどこから調達したものかは俺には関係ないし。」 「・・・・・・・・」 日高の言わんとしていることがなんとなくわかる優司。 ホームレスの身で、さらに極度のヒキ弱で全く勝てていない人間がこんな大金を持っていることなど 通常ありえない。 となれば、普通に考えればこの金は「借金」ということになる。 実際その通りなのだが・・・ ホームレスの優司に、気前よく金を貸してくれる金融会社などありはしない。 ましてや、友人・知人なども当然である。 となると、必然的に選択肢は闇金融しかなくなる。 いまや疎遠となっている親の名義まで使い、無理してなんとか調達した金だった。 「・・・・ありがとう。 受けてくれて嬉しいよ。 おかげで藤田に恨みを晴らす機会がもらえたわけだし。」 「そのかわり、恨みっこなしだぜ。 俺が勝った時はその金を遠慮なくもらうから。」 「わかってる。 日高君も頼むよ。 ・・・って言うまでもないか。 藤田とは違うってのは見てればわかるし。」 「当然だ。 もし負けたら潔く払うよ。」 「うん、それは信用してる。 ・・・・・・それで、勝負の日取りなんだけど、3日後の6月26日土曜日でいい?」 「まあ、俺のホームの店だし、日取りくらいはそっちが決めていいよ。」 「そっか! 助かるよ! じゃあ、当日このホールの前で。」 そう言って、優司はその場を去っていった。 「(よし、これでサイは振られた・・・・・ あとは結果を出すのみ・・・・・)」 歩き去りながら、静かに闘志を燃やす優司。 あとは勝負の時を待つのみとなった。 ********************************************************************** 日高との勝負成立から3日が経過。 約束の日である2004年6月26日、土曜日の朝。 この日、イベントでもなんでもないのに開店3時間前に並ぶ優司。 当然、先客はなし。 いかに台選びに自信があろうとも、それを取られてしまってはどうにもならない。 ゆえに、絶対に1番に並べるよう、念には念を入れてありえないような時間から並んでいたのだ。 そして開店1時間前、ようやく日高が現れた。 「おはよう! 約束どおり来てくれたんだね。」 日高を見つけるやいなや、元気よく話しかける優司。 「ああ、そりゃ来るさ。 俺にとっちゃかなりおいしい話だと思ってるからね。 それにしてもやけに並ぶの早いね。 この店なら、通常営業の日は1時間前に来ればほぼトップなのに。」 「ああ。 狙い台は絶対に取りたいからさ。 100%トップに並べる時間に来たんだ。」 「ふーん。 まあいいや。 ああ、あと藤田ももちろん呼んでおいたから。 あとで来ると思うよ。」 「・・・・・・・そっか、ありがとう。 それが俺の一番の目的だしね。」 藤田の名前を聞き、少し優司の表情が強張った。 その後、お互いルールについてもう一度再確認し合った。 この勝負は、とにかく設定読みの勝負であること、出玉は一切関係ないこと、30万円がかかって いることなど。 その最中、不意に日高から質問がきた。 「あのさ、設定6をツモった方が勝ち、っていうルールだったよな? これって、閉店時に機種に関わらず6に座ってればいいのか?」 「いや、それだと、閉店間際に空いた6に座られたりしたら意味がないから、お互い朝一に選んだ台が 6だったら勝ち、っていうルールにしたいんだけど。 で、この店の場合だと夜の9時に設定発表するよね? その時で勝負は終了って感じで。」 「なるほど、確かにそうしないと勝負にならないもんな。 わかったよ、開店したらお互いすぐに台を抑えて、その台が6かどうかの勝負、と。 で、夜の9時に勝負終了な。」 「うん、それで完璧。 じゃあこれで決まりだね! 今日はよろしく。」 「ああ。」 勝負直前の話し合いも終わり、日高は一緒に並んでいる連れと他愛もない話をはじめた。 「(いよいよだ・・・・ まずはきっちりと狙い台を取る! ここしばらくの下調べで絞り込んだ1台だ。 なんとしても取らないと・・・・)」 ********************************************************************** 開店1分前。 期待と興奮で自然と肩に力が入る。 「(絶対勝てる。 俺が負けるわけないんだ。)」 自らを鼓舞する優司。 もちろん不安はある。 自分の設定読みに絶対の自信を持っているとはいえ、相手はこのホールでジグマっている人間。 しかも、グループのリーダー張ってるくらいだから腕の方も相当なはずである。 もし負ければ、自分に残るのは返すアテのない借金だけ。 しかも借りた先は闇金融。 内心、「絶対勝てる」というよりは「絶対に勝たなければいけない」という思いの方が強かった。 「(もうあの生活に戻るのはイヤだ・・・・ 絶対に・・・・・)」 第11話へ進む 第9話へ戻る 目次へ戻る
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